“ひと" と "技術" を訪ねる・・・和紙 1

機械技術がどんなに発達しても、人の手からでなければ生まれないものがあります。
長年の使用を経ても美しさが色禎せない“手漉き和紙”もそのひとつ。
温もりを感じさせる柔らかさ、手にした時の独特な張りなど、
そこには人の手による技術があります。次世代に伝えたい大切な素材です。

「手漉き和紙が消える?」
 日本の風土のなかにあって、昔から和紙は生活の随所に使われてきました。例えば、障子。和紙を通して室内に入り込む、四季折々の光のハーモニーは、心を落ち着かせてくれます。桂離宮御殿の障子といえば眩いほど白く、於琴亭の床の間は白と藍の市松模様が実に美しい停まいで、いつまでも心に残るものです。また、彫刻家イサム・ノグチのつくつた美濃紙の提灯のように、和紙を使った照明器具も建築空間によく馴染みます。
 日本の紙祖とされる曇徽が、高句廉から紙の製法を伝えたのは、推古18年(610年)といわれ、今も残る最古の紙は、正倉院にある大宝2年(702年)の戸籍用紙で、美濃の紡が使われていたようです。明治時代になると、パルプを原料とする国産の洋紙が各地で盛んに生産され、美濃紙の需要は減る一方でした。
 しかし昭和初期、民芸運動家の柳宗悦が、「日本人はもつと日本紙の美しさに対して自覚をもつべきだ」と提唱し、手漉き和紙の美を再認識する動きもありました。
 今日では日本古来から伝わる和紙のほとんどが、機械漉きのもので占められ、伝統的な手漉き和紙を生産する人々は年々減少し、その後継者不足が閏題となっています。
 現代の生活空間から失われつつある手漉き和紙を、もつと私たちの設計に生かせる方法はないものかと考えるうちに、探究心に火がつきました。各地の手漉き和紙の生産地を巡って、そこで抱える問題や将来の展望に耳を傾けながら美しい手漉き和紙の魅力と活用を探る旅が始まったのです。


伐採したばかりの柏の原木。(飯山市伝統産業会館)

「飯山産の内山紙と阿部製紙を訪ねて」
 1995年の1月、まずは内山紙の生産地、長野県飯山地方へ。まだ1mを超える雪に覆われた瑞穂地区に、手漉き和紙の伝統工芸士、和紙組合長の米持大助さんを訪ねました。
 米持さんの話によると、飯山では大小18軒が和紙の生産を行っていて、彼の記憶が正しければ、戦前は100軒以上を数えたといいます。
 現在は主に台帳用紙として使うため、墨のにじまない機械生産が主体です。この台帳用紙は、30年前から本格的な生産が始まりました。以前は障子紡が生産の8~9割を占めていましたが、今は7~8割が台帳用紙だとか。
 おおよそ2尺×3尺の和紙を48枚束ねたものを1丈といい、25丈で1丸(1200枚)と数えます。
 3代100年以上続く米持さんの家は手漉き和紙をつくり、「たつみ会」という組合を通して、東京の日本橋などの問屋に卸しています。飯山では農家との兎業が多く、紙の生産はほとんどが冬場に集中するので、この組合には寒中生産した時のストックはあるものの一年中常時ストックがあるわけではありません。東京の開屋には特に夏場、品物が不足してしまうのが実情とか。
 水が冷たい冬に生産する理由は、和紙の仕上がりとも閑係があり、冬の天候の良い日を選んで4~5日岡椿の白皮を川の雪解け水にさらすと、いっそう白くなるそうです。さらしてからは軒先に吊るして乾燥、夏場まで乾かしておくこともありますが、夏に漉いた紙に比べて、冬の和紙は腰が強く、手触りもよくなります。
手漉きと機械漉きの違いは「簀」の糸目で、手漉きにはこれが見られます。この「簀」とは、木製の漉き舟から溶けた和紙の繊維をすくう竹編の器具で、四国の徳島でしかつくられず、竹の編替えをできる人も飯山にはいなくなってしまったそうです。
飯山では機械漉きの阿部製紙も訪ねました。工場では、水槽の上の大きな回転機の聞から、和紙の繊維が圧縮されて出てくるところを見学。規模も生産力も圧倒的に違い、機械工場ならではの長い紙を生産していました。工場で生産される機械漉きの紙は「テカッ」とした仕上がりですが、椿の原木採取に始まり、およそ20工程もの手作業を経て生まれる米持さんの内山紙には、手の温もりを感じさせる「ほわっ」とした柔らかさがありました。


内山紙をつくる米持さん。この筆をつくれる人は、高知県にl人だけとなった。


阿部製紙工場では、機械鹿きに上る長い拡を生産。

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