ある小説集より。
「頑張れ!セルフビルダー」からの抜粋
出納係の美代子の同意も取り付けたことだし、これなら客は来るに違いないと思った。
しかし、この建物はテナント用に作られた無味乾燥なものなので、インテリアショップやレストランに衣替えするには、それなりの備えというものが必要だった。
仮にレストランを始めるとすれば、それにはまず、冷暖房の設備を整えたり、営業用のキッチンを作ったり、サービスカウンターやテーブル、椅子などを用意しなければならない。それに、こういう設備を整えるには相当の時間がかかる。
そう考えた熊田は、気がつけば建物の完了届けを役所に提出していなかった。
これは、獅子山の指摘によって発覚したものだった。彼は、ここではひとまず獅子山に頼んで、貸事務所としての届け出をしておくのが賢明だと思った。
というのも、熊田は建物をどういう風にやり直すべきなのか、厨房や客室の細部にわたる見当が容易につかなかったからだ。
建物が完成しても目的が違っていたのでは、建物を使用出来なくなる事があるから、当面の手法として、工事が完了したという手はずにしておく。書類さえ出しておけば、後は変更工事ということでやっていけるだろう、熊田はそう思った。
この完了届を受け取った役所の建築課の役人は、数日後、建築法規などのチェックをするために熊田ビルを訪れ、建物をなめるように見て回った後日「検査済証」というものを発行した。
検査済証さえあればいつでも建物は使える。
それを見計らって、熊田は、レストランに改装するために、建物の間仕切りを取り払い始めたのだが・・・ちなみに、大規模な改装にも許可が要る。
彼は、専門業者にも依頼して、幾つかのガラス瓶の販売ボックスを設置し、厨房を作り、レジを設け、照明を取り付け、どうにかレストランの営業ができるように取り計らった。
しかし、彼は店を開業するのに、これ以上のいろいろな申請や、クリアーすべき法規があることを知らず、そんなものは後でも何とでもなるものと考えていた。
つづく・・・・
