カリンの木の葉が辛うじて残っていた。
植えてから5年ぐらいになるが、まだ
果実が実ったことがない。
何時になったらカリンの実が拝めるか・・・
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私の小説・戦う住宅より~
彫刻家の決心
「そうか、錦織は白紙にしてごせ言っとったかね・・・理由は、きっとあのことかもっせん。実は彼には恨まれとる。彼は、僕のしでかしたことを許さないんだども・・・
実はあのころ、妻の浪江のことでむしゃくしゃしてたから、悪いとは思ったが彼の、二十㎝くらいの「夕月」という若い裸婦を、結婚式の余興の景品に無断で使ったんだ。たしか五体鋳造した。ただ、銅製の彫刻は重いから贈答品のカタログに載せるのは断られたんだ。
そのあと、ある新人議員のパーティーで「夕月」を記念品にしたんだが・・・まあ、ここまでは許されるが、あとがいけんかったか。」
井上はここで一言、口を挟もうと思ったが、それを遮る術もなく木下は早口で続けた。
「アメリカじゃあ、いまどきチフーリとかF・ステラのようなのが好まれるが、錦織のはロダンかブールデル。たとえ才能があっても、ああいう作品には美術商がつかん。
それで、こんどは「闇夜」という銅製の梟の彫刻を、ニューヨークの知り合いの画廊に持っていったわね。あれは確か五番街の「ブルーナイト」という店だ。レオナルド・タカっていう人がオーナーで、彼は摩天楼近くのビルから飛び降りて頭から地面に突っ込んだが、かすり傷で済んだから、「不死身のバード」って言われてた。
当時アメリカではベトナム帰りがLSDやってて、彼もそれに手を出して空中遊泳でもするつもりだったか。」と木下は言い、話がもう一つ読めない様子の井上に申し訳なさそうに煎餅と茶を勧めた。
そして木下は、煎餅を口に入れくしゃくしゃやりながら、
「ところが、肝心の彫刻なんだが、タカが入院した後になって、その画廊からいつの間にかどこかに消えちゃったんだ。それで錦織はたいそう憤慨したんだけんなー。」とこんどは済まなさそうにボリボリ頭を掻いた。
「黙ってやったのはよくないよ、そりゃあ、誰だって怒るに決まってる、その彫刻は君の物じゃあないんだから責められるのは当たり前だろう・・・それにしても君はずいぶんと大胆なことをするんだなあ、知らない間にそんなことをしていたのか・・・」と井上が額にしわを寄せながらやや押し出し気味に不満を挟むと、
「僕は錦織が家を計画しているのは知っとった。だから錦織を君に紹介したのはえだども、どうやら彼のふくれっ面の時期と合い過ぎたな・・・彼のことだから、また僕が何か企んでいると思って警戒したんじゃあなかっただらか、いやーすまん、とんだ苦労かけた。そのうちまたおごるけん、そんなに気にしないでなー。」と言い、木下の話はこれで終わった。
井上は、事務所への帰途の道すがら、
「あいつ、旅行三昧のあげくに見くだり半にされた浪江さんとのことや、家の修繕なんかで一文無しになってしまって、相当いらついてたんだろうが、自分は凹んでも、関係のない錦織を傷つけてまで、彼の作品を使って儲けようとしたのはどうも頂けん。
芸術家にとっては、プライドと食い扶持はそう易々と秤に架けられんだろうし、いくら生活が困っても、無碍に作品を切り売りされちゃあ、かなわんということだろう。なんだかこの世界も難しいもんだ。」と思った。
それは一瞬のうちに風神が襲来し、竜巻でグルグル振り回された挙げ句、いきなり懐疑の深淵に投げ出されたような気分だった。
そもそも正三が、井上を信じなかったのは、木下が井上を抱き込み、何かを企らんでいるという先入観があったからだ。それはそうやすやすとは拭いきれるものではないが、なんともかんともこれでは情けない。
つづく・・・
